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避妊・去勢とがんリスクの「真実」

家族の一員である愛犬を「がん」から守りたい

私たちにとって、愛犬は単なるペットではなく、かけがえのない家族の一員です。 しかし、イヌはヒトと同様に「がん(悪性腫瘍)」を発症しやすい動物であり、多くの愛犬家にとって、わが子のがん発症をどう避けるかは、切実で大きな悩みではないでしょうか。

今回のコラムでは、ブリーダーとしての視点、そして最新の獣医学研究の視点から、特にゴールデンレトリバーにおける「がんリスク」と「避妊・去勢手術」の深い関係についてお話ししたいと思います。

(1)「防げる病気」と「複雑な病気」の違い

まず、病気には「親犬選びで防げるもの」と「そうでないもの」があります。

特定の遺伝性疾患(例えば進行性網膜萎縮症など)は、現代の遺伝子検査技術によって原因遺伝子が特定されています。私たちブリーダーが、その遺伝子マーカーを持つ親犬同士を交配させないよう管理することで、子犬での発症を確実に避けることができます。

しかし、「がん」の発症メカニズムはもっと複雑です。 がんは単一の遺伝子だけで決まるものではなく、多くの遺伝的要因と環境要因が重なって起こる(ポリジーン:多数の遺伝子の蓄積)ため、検査一つで「この子は絶対がんになりません」と保証することは、残念ながら現代の科学ではできません。

(2)ブリーダーが為すべきこと「先天的なリスク低減」

だからといって、ブリーダーにできることがないわけではありません。 がんのような複雑な病気のリスクを下げるために、私たち繁殖者が絶対に守らなければならない規範があります。

それは、「遺伝子の多様性(ダイバーシティ)」を重視することです。

近親交配(インブリード)を避け、異なる遺伝子プールに属する親犬同士で交配を行うこと。これにより、特定の「弱さ」や「疾患リスク」が濃縮されるのを防ぎ、犬が本来持っている免疫力や生命力を底上げする。これこそが、がん発症の先天的なリスクを下げるための、ブリーダーの最も重要な責任です。

(3)飼い主様にできること:避妊・去勢の「光と影」

では、子犬を迎えた飼い主様にできる「後天的な予防」とは何でしょうか。 その代表的な手段として、長年推奨されてきたのが「避妊・去勢手術」です。

しかし、ここには慎重に考えなければならない問題があります。 生殖器官を切除するということは、単に子供を作れなくするだけではありません。体にとって重要な「ホルモンバランス」を人為的に変えてしまうことを意味します

特に成長期の手術は、性ホルモンによる骨の成長制御を失わせ、骨格の健全な成長を妨げるリスクがあります。さらに近年、犬種によっては、手術をすることが逆にかえって特定のがんのリスクを高めてしまうという事実が明らかになってきました。

(4)ゴールデンレトリバーにおける「衝撃的なデータ」

特にゴールデンレトリバーの飼い主様には、知っておいていただきたい重要なデータがあります。

ゴールデンレトリバーはもともとがん好発犬種ですが、他犬種に比べて「血管肉腫」や「リンパ腫」の罹患率が非常に高いことが知られています。これらは発症すると進行が早く、命に関わる怖い病気です。

近年の研究において、以下のことが明らかになりました。

  • 避妊・去勢手術をしない(または時期を遅らせる)ことで、性ホルモンのバランスが保たれ、これら血管肉腫やリンパ腫の罹患率を下げられる可能性がある。
  • 一方で、メスの場合、避妊手術をしないことで「乳がん」のリスクは残ります。しかし、ゴールデンにおいては、乳がんによる『死亡リスク』は、血管肉腫やリンパ腫のそれに比べれば、相対的に低いものである。

つまり、命を守るための優先順位を考えたとき、「十分に骨格が成長するまで手術を待つ」、あるいは「生殖器官を切除しない選択肢を検討する」余地が十分にあるのです。

(5)「医学」だけでなく「家族」としての最善の選択を

もちろん、避妊・去勢手術には「望まない繁殖を防ぐ」「性的なストレスを軽減する」といった社会的・行動学的なメリットもあります。

手術をするか、しないか。 その結論を出す際には、医学的なメリット・デメリット(がんリスク)だけを見るのではなく、以下の要素も含めて総合的に考える必要があります。

  • 愛犬の元々の性質や既に身に着いた性格
  • 飼い主様の管理能力やしつけの技術的側面
  • 飼養環境やドッグランなどの利用頻度など社会的側面
  • 動物福祉の観点からの倫理的側面

正解は一つではありません。 だからこそ、獣医師やブリーダーの意見を参考にしつつ、最終的には「家族の一員たる愛犬の健康と命を預かる責任者」として、飼い主様ご自身が納得のいく選択をされることを願っています。

ROKKO BASE K9では、そのための正しい情報提供と健全な仔犬の作出を通じて、皆様の愛犬ライフを全力でサポートしてまいります。

引用1:アメリカのモリス・アニマル財団が主導している世界最大規模の追跡調査                 「Golden Retriever Lifetime Study (GRLS)」 

  • Association of cancer-related mortality, age and gonadectomy in golden retriever dogs (2018)
  • Golden Retriever Lifetime Study: 2025 Outcomes & Impact

引用2:カリフォルニア大学デービス校のベンジャミン・ハート博士らの研究                 「 Neutering in Golden Retrievers: Effects on Joint Disorders and Cancers」            PLOS ONE (2013 & 2014)

  • Hart BL, et al. (2013) Neutering in Golden Retrievers: …
  • Hart BL, et al. (2014) Long-Term Health Effects of Neutering Dogs: Comparison of Labrador Retrievers with Golden Retrievers

引用3:ヨーロッパの獣医療データベースおよびペット保険データ

  • VetCompass (Royal Veterinary College, UK): 英国の一次診療データに基づく有病率調査。
  • Prevalence of Canine Mast Cell Tumours (Virbac/Vet-UK)
  • Canine lymphoma in Croatia: a fourteen-year retrospective study (2024)

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