01. 繁殖犬引退後の暮らし
現行の動物愛護法では母犬の生涯出産回数は6回まで、交配時の年齢は6歳以下と繁殖制限が明記されました。父犬については明確な年齢制限はありませんが、交配には想像以上に体力が必要となるため、加齢による衰えを迎えた父犬は7~8歳には繁殖犬を引退します。
弊舎では繁殖を終えた犬たちも残りの犬生を健康で、楽しく、ゆっくりと過ごせるよう、生まれ育ったこの犬舎とグランドで仲間たちと一緒に生涯最後まで暮らします。
人と同じく年老いた後での環境変化や共に暮らす家族が変わってしまうことは、犬にとっても大きなストレスとなるのでROKKO BASE K9では終生飼養すると決めています。
02. ブリーダーが直面する問題
2019年6月に大規模な改正がなされた動物愛護法では、ペットの終生飼養の義務が明文化されました。これは一般家庭と同じようにブリーダーも守らなくてはならない義務ですので、繁殖引退犬は犬舎で終生飼養されることが求められています。
一方で、ブリーダーを業とする小規模な犬舎では通常5~6頭の繁殖犬がいます。同法ではブリーダー一人当たりの繁殖犬飼育頭数も数値化され、商業主義的な乱繁殖に歯止めがかかりました。しかしながら、ブリーダーは現役の繁殖犬と引退犬全ての暮らしを賄うだけの稼ぎを得るのは難しい現実に直面しています。それがブリーダーによる引退犬の飼養放棄や遺棄、虐待、更には多頭崩壊による保護犬の増加といった大きな社会問題へと発展してしまいました。
03. 繁殖犬に求められる福祉
本来、繁殖犬も繫殖引退犬も家庭犬と同じように、愛情ある家族と一対一の関係性をもつことで幸せな暮らしを送ることができます。しかしながら、小規模な犬舎であっても現役犬5頭と引退犬5頭の合計10頭程度の犬を飼養しなければならず、一頭一頭に十二分な愛情を注ぐことは困難と言えます。
ならば、心あるブリーダーは繁殖から引退した犬に里親を見つけようとしますが、犬の目線で言えば暮らし慣れた家や愛する家族から離れ、高齢になって新たな環境に順応して暮らしていくのは簡単なことではありませんので、これも万能な解決策とはいえないですね。
では、どうすれば繁殖犬(引退犬含む)が家庭犬と同じように家族との強い絆を結びながら、犬種固有の特質や健全性を後世に受け継ぐ役割を担っていけるのでしょうか。
04. ガーディアンプログラムとは
ガーディアンプログラム(guardian program)というのはあまり馴染みのない言葉ですが、ブリーダーに代わってガーディアン(guardian)と呼ばれる監護者(または保護者)が将来繁殖犬となる仔犬を預かり、自分の家庭で終生飼養する制度です。このプログラムで責任をもって犬の養育を受け入れる家庭をガーディアンホーム(guardian home)、そのご家族をガーディアンホーム(guardian family)と呼びボランティアとして活動します。アメリカやヨーロッパ、オーストラリアなどでは一般的に取り入れられているプログラムですが、日本においてはまだこうした取組みは浸透していません。
では、この制度はいったいどのようなものなのでしょうか。プログラムにはブリーダーの考えに基づく一定の条件をクリアした一般家庭が参加します。通常の譲渡と同じように社会化期が終了する前段階(生後2~3ヵ月)から将来繁殖犬となる仔犬の養育が始まります。性成長が進み交配が可能になる頃(通常は生後18ヵ月以降で2回目のヒート)になると、その犬はいったん犬舎に戻り交配・出産します。その後、約2ヶ月間の子育て期間を終え仔犬が巣立つと、母犬は愛するガーディアンホームに戻り、家族の一員としての暮らしを再開させます。
このサイクルを繁殖適齢期が終わる6歳まで4~5回程度繰り返したのち、その犬は繁殖犬としての役割を終え引退します。犬の平均的な寿命を鑑みると、ちょうどこの頃犬生の折り返し地点を迎えることになりますが、残りの半生においても慣れ親しんだ環境で愛情深い家族との暮らしを引続き謳歌することになります。
05. 弊舎の取組みについて
ROKKO BASE K9では繁殖犬の福祉と職業ブリーダーの経済的合理性の観点から、2022年より欧米のガーディングプログラムを日本の文化風土に合ったものにアレンジして取組んできました。現在3頭の繁殖犬がこのプログラムに則り、ガーディアンファミリーのもとで暮らしています。
2024年6月に出産したアンジュはこのプログラム第1号ママとなりました。彼女の娘の一頭がガーディアンホームに迎えられることになったので、今後は娘と共に繁殖犬としての暮らしを続けていきます
弊舎では今後も犬の健康と福祉に関する価値観を共有できるガーディアンと共に互いに手を取り合い、レトリバー専門犬舎として優れた犬質と健全性の継承に努めながら、引退後の親犬の健康で幸せな犬生をサポートして参ります。
*弊舎ガーディアンプログラムは犬舎の状況に応じて進めております。一般の方からのプログラム参加は受け付けておりません。また、ガーディアンホームの選考基準についても一般公開は致しておりません。
ガーディアンホームで暮らす母犬「アンジュ」と娘「ソフィー」の様子